無題 ---1
「は……今、何とおっしゃったのですか」
張り詰めていた緊張の糸が、ぷつんと音を立てて切れそうになる。
イタチが睨みつけている人物―――父でありうちはの当主でもある
フガクは、まだ幼い息子に無理難題を押し付けようとしていた。
「任務だと考えてくれればいくらか気が楽になるはずだ」
「無理です」
「一族内で最も優秀な血をここで絶やすなど…」
イタチは、フガクが何を言っているのか突差には理解できなかった。
一族の枠を越えて里全体を視野に入れて考えてみても
イタチほど近年稀に見る才能を開花させ、めまぐるしく活躍している忍は
当時、他にいなかった。同世代は勿論、それ以外の世代にも。
「イタチ。うちはの写輪眼は利用するため・されるためにあるのだぞ。
それを使わずに遊ばせておくなど…宝の持ち腐れではないか。
里の中枢が我々に寄せる期待を裏切ってはならん。わかるな?」
「手にした力をどう使うかは私の自由です。私の写輪眼は私だけの物だ」
「違う!」
突然声を荒げたフガクの横で、ミコトが小さく身じろぐ。
口を真一文字に引き結び、母として妻として何がしか意見したいのを
先程からぐっと堪えていた。
そんな母の視線を痛いほど感じて、イタチは早々に部屋を出ていきたくなった。
父の主張と過去一度でも噛み合ったことがあっただろうか。
一族だ里の中枢だなどと、いつも世間体を気にして何かに脅え
昔自分が憧れた気位の高い当主の面影は、笑ってしまいたくなるほど
跡形もなくどこかへ消え去ってしまった―――
そう感じた日から、イタチはフガクが持ちかける任務の話を受けなくなった。
暗部に所属することを選んだのも、火影以外の人物の手をわたり
薄汚い欲望や姑息な罠、邪な思惑が絡み付いた胡散臭い任務に
関わる手間暇を効率よく避けていくための子供なりの知恵だった。
地位や名声をも手にしかけていたイタチでも、一族が極秘裏に
火の国の大名や他国から五影を通さず引き受けてきた任務を
断わる術までは持っていなかった。
どんな任務でさえもこなし一族と里のために尽力していると
手放しに賞賛されているシスイでさえ、イタチと二人で過ごす間に
愚痴のようなものを溢すことがあった。
「シスイとは会うな」
まともに耳に入れず聞き流していた話に思わぬ名前が紛れて、
イタチの鼓動が一瞬強く身体の中に響いた。
「何故ですか」
イタチはシスイに、誰よりも心を許していた。
同じうちはでもあり、また良き好敵手でもあったシスイは
他の者がイタチに向ける不躾な視線や嫉妬心とは無縁の
ゆるやかな空気でいつもイタチを受け入れていた。
悩んでいたイタチに暗部入隊をすすめたのもシスイだった。
「あいつはお前に甘すぎる…」
庭の小鳥が枝から飛び立つ羽音とフガクの咳払いが重なって
イタチの耳に届く。
黙ったままその場で立ち上がり、イタチが静かに言った。
「任務があるので失礼します」
続
INFO:イタチの過去(暗部設定)を
今度こそ本気で捏造しようじゃないか!
…と意気込んだはいいが、って感じ。
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