-魅-










いつからだったろう。
うちはイタチは一族の慰み者にされていた。
物心はとうについていたので、自分が何をされているのかは解っていた。

ハードな任務に就き、疲労しているはずの体のどこにこんな力が残っているのか、とイタチはぼんやりと空を見
つめながら思った。

ときには複数で責め立てられもした。
普段無口で愛想のないイタチを組敷いて、大人たちは歓んだ。
抗うイタチを見るときの下卑た笑いが脳裏に焼き付いて離れない。

ぐったりとしおれた身体を起こし、閉めきった雨戸に手をかける。
はだけた胸元には幼いイタチに似つかわしくない汚れがあふれていた。

縁側に出ると、父親が入ってくるところにちょうど遭遇した。
「イタチ」
声を掛けられてもイタチは返事をしない。顔すら上げず、ただ地面に視線を落とすだけ。
「見目良く生まれた者の運命だ、受け入れろ」

「さだめ…」
うわ言のように、乾いた唇からこぼれた音は枯れて。
掬い上げられた顎の先を濡らす雫の源は虚ろに。

「お前の未来が多難に満ち溢れていたとしても」
空いている手で目を隠されて口付けられる。
イタチに抵抗する気力は無かった。

「運命には逆らえない――― 逆らってはならない」
イタチに救いの手を差しのべてくれる者は居ない。
一族の間で脈々と受け継がれる、忌まわしい風習。
断ち切るためには。
断ち切るからには。



あの日の前日、シスイは言った。
「逃げよう、ここから」
イタチは嬉しかった。居た。こんな近くに。
…でも、もう遅かった。
こみ上げるいとしさを抑えて、イタチは微笑んだ。
弔いにもならないだろうと思ったが、穏やかな気分が広がって自然に表情が緩んだ。

その瞬間のことは今でもよく夢に見る。
あんな気持ちになったのは、後にも先にもあのときだけだった。

イタチはただ黙って見つめていた。
そして声にならない声で呼び掛ける。
「早くオレを殺してくれ」
脆弱な力を左手にたぎらせ向かってくるたったひとりの大切な弟、
かけがえのない者の命まで手に掛けた己の贖罪―――
その代償に。















INFO:2005/06/17 12:07
シスイタのような、フガイタのような。
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